*Attention!*
本作は事前情報の有無で印象が変わる傾向の強い作品です。
ネタバレには配慮していますが、上記の点に留意して本記事を閲覧してください。
『秒速5センチメートル』『君の名は』『天気の子』でおなじみ新海誠監督の最新作見てきました。
ざっくりとした感想を述べると「受け止め方が難しいな~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」って感じです。
いや、この言い方だと面白くなかったみたいに受け取られがちなのできっちり言っておきますが、面白かったのは間違いないです。
本作は複数の性質を持った作品なのですが、
作品の大部分を占めるロードムービーとしての部分は非常に良かったなと思います。
まず、ロードムービーの導入、つまり旅に出るきっかけの描き方非常にスマートなんですよね。
具体的には--
主人公のすずめが偶然、草太という青年と知り合う。
↓
草太は災いを呼び起こす扉を閉じて回ることを目的として旅をしていることを、すずめはちょっとした事件のせいで知る
↓
すずめがその話を聞いた直後、草太は謎の猫によって椅子の姿(ただし移動はできる)に変えられてしまう。
この結果として草太は扉を閉じることのできない体になってしまい
事情を知っているすずめの力を借りながら、全国各地の扉を閉じつつ、
椅子の姿に猫を捕まえるために全国各地を二人で旅することになる。
--といった感じですね。
『君の名は。』『天気の子』でも思いましたが新海さんはファンタジー要素と物語の軸を密接に絡めながら簡潔に説明する能力が本当にたけえ。
取り扱う不思議要素と主要人物の目的みたいなのがスッと入ってくる。
話を戻しまして、
あれよあれよといううちにダイジンを追いかけて九州から全国各地を歩く展開とか、
すずめと草太が旅を進める過程で各地の出会いによって助けられていく様子とか、
椅子になってしまった草太とすずめの掛け合いはずっとみていたいほど楽しかったです。
これだけで十分に見てよかったと私は思います。ロードムービーとして非常に良かったというのがこの部分。
ただそれはそれとして、私は『天気の子』のほうが好きだったなあ、って感想が残ります。
個人的な好みは『 天気の子』 > 『君の名は。』 > 『すずめの戸締り』です。
あれだけロードムービーの部分絶賛しておいてどうしてこんな感想になってしまったのかって話になりますが、ネタバレしない程度に言語化するのは非常に難しいです。
えらく抽象的な意見を述べるとするなら、物語の終わりを呑み込むタイミングがわからなかったんですよね。
トーマスキャンディだと思って食べてたらチューインガムで呑み込めなかったというか、
あるいはその逆でチューインガムだと思ってたらトーマスキャンディで口の中から消えてしまっていたというか。
(私が仕事明けにレイトショーで見たから疲れていたのもあったのでしょうが)
要するに、終わりと終わりに至る過程がきれいに頭に入ってこなかったんですよね。
片時も目を離せないほど引き込まれていたはずなんですけど・・・。
と、まあ。ネタバレ抜きで感想を述べると上記のとおりです。
最後に煮え切らないもやもやとした感想になって説得力は一切ないと思うんですけど、ロードムービーとしてはすごく楽しかったんです。
これはマジ。
後は最後に至る過程をどこまで解釈できるかどうかって話になると思います。
前2作品に比べて複雑というか、要素の多い作品なので脳のリソースに余裕のある時に鑑賞されることをお勧めします。
ただ、やっぱ。"最高傑作"はもち上げすぎかなあ……
以降、ネタバレ込みの感想になります。
ネタバレに一切配慮しないから気を付けてくださいね!!!!!!!
OK?
ネタバレ込みの感想
言ってしまえば、良くも悪くも終わり方、ここでいう終わり方は物語における問題の解決の仕方がさっぱりしすぎていた。
エピローグの雰囲気がでてきたとき、どうしても「これでいいのか・・・?」という疑問が残ってしまってうんですよ。
その原因を考察するため、前2作で感じて、今作で感じられなかったものを整理してみたところ、「課題解決の過程における必死さ」と「課題解決の決め手」という2つの要因があるのだという考えにたどり着きました。
課題解決の過程における必死さ
多分なんですけど、私は強いエゴイズムみたいなものを求めていたんですよね。
今作、および前2作の『君の名は。』『天気の子』は全て大雑把にくくってしまえば「大切な人を助けること」というのが最終的に物語中で解決したい課題だといえると思います。
そのために、前2作では共通して
- 解決に導くキーポイントとなる場所に向かう
- 周りの人に迷惑をかける(というかほぼ犯罪)
という二段階のステップを踏んでいました。
前者はともかく後者は賛否が分かれるポイントだとは思うのですが、
私はこの迷惑をかける行動が「大切な人を助けるためになりふり構ってられない」というある種の自己中心的な部分を感じられてすごい好きだったんですよね。
で、本作はその「迷惑をかける」というステップが弱かったなあ……と。
まあ、実は誰かに迷惑をかけてはいるんですがその役目は芹沢というキャラクターにほぼ集約しています。
だからこそ芹沢はいいキャラなんですけどね。
課題解決の決め手
もう1つ。
私が終わりを呑み込めなかった原因の大きな要因として事態の解決の決め手「人間の決断」ではなく「神秘の存在」だった点もあると思います。
『君の名は。』も『天気の子』も「大切な人を助ける」過程に神秘の力を借りることはあれど、結果的に「大切な人を助けた」のは登場人物の決断でした。
『君の名は。』では三葉が瀧の名前を忘れてしまっても町役場に出向いて説得し、避難訓練をしたことで三葉含めた糸守の人間が無事助かり、
『天気の子』では帆高が
陽菜がいるけど異常気象の続く世界 >>>>> 陽菜がいないけど正常な世界
という決断をしたことで、陽菜が助かりました。
一方で本作では「ダイジン」という猫の形をした神が本来の役目を全うしたことで草太もすずめも助かり、災害もおさまるというパーフェクトなハッピーエンドで終わります。
ところが、ダイジンが悪役的な描写がされていたのもあって「これで助かっていいのか……?」という気持ちが残ってしまうんですよね。
まあ、ダイジンが要石という役目から解放してもらった恩義をすずめに感じていた描写とかもあったので、そこまで唐突な展開というと違うんですけど・・・どうもしっくりこないというのが正直な気持ちです。
少し話が逸れますが、環さんのヒステリック&仲直りとか、サダイジンとかも急に現れた要素で話を詰め込みすぎた印象は否めないです。
物語のラストに向かう大事な布石ではあるんですけどね。
総括
と、まあ前2作と比較してこき下ろしたみたいな内容になりましたが、
あくまで『すずめの戸締り』を見て感じた物足りなさを言語化するために前2作を挙げただけであって、『すずめの戸締り』を理由に前2作を持ち上げる意図はないのでご了承ください。
反対に、前2作を使って『すずめの戸締り』という作品を非難する意図もないです。
『すずめの戸締り』単体で見て物足りないと感じた感想……になっていると、少なくとも気持ちの上では思います。
実際、本作の良かった点として、前半の全国各地を渡り歩く過程を楽しいと感じたのは事実です。
課題の解決過程と手段に物足りなさを感じつつも、この映画を通して新海さんが伝えたいこと/描きたいこと*1自体は非常に興味深い良いテーマだったなって思ってます。
見終わった後に何かしら残るもののある良い映画であることは間違いないです。
ただやっぱり私の物語の向き合い方が課題解決の過程に重きを置きすぎているだけ、という話なんですよ。
テーマは良かったけど解答がしっくりこない参考書の問題みたいな感じ。
私は「大切な人が助かるなら周りがどうなったっていい」という自己中心的な考えだけでスパーン!と問題を解決した『天気の子』の答えが一番好き。
*1:要約すると「災害という非日常に時間をかけてしっかりと向き合って、また日常に戻る」とかそんな具合