僕は今さがしはじめた 水しぶきあげて 果てしなく続く世界へ
きっかけ
You Tubeのshort動画で新時代を聞きすぎたのとTwitterで流れてくるFILM REDの評判がよかったのもあって、ワンピースの劇場版に俄然興味がわいてきました。
一方で私はワンピースを空島編の序盤しか(※序盤までではない)見たことがなく、
敗北者をはじめとしたネット上に流れてくる有名なシーンと暇つぶしに読んだピクシブ百科でつまみ食いしている程度人間。
25年分の歴史を積み上げた先にある劇場版最新作をつまみ食いしている程度の人間が楽しめるのだろうかという不安もあり尻込みしていました。
楽しむための最低限の準備はしてから挑みたいんですよね。。。
本編の変なネタバレも食らいたくないですし……原作を履修しておきたいところ。
ただ103巻もあるんですよね……となると仕方ないですが……
やるしかないですね。私は最強。
FILM REDの感想
*ネタバレに配慮はされてないのでご注意を*
全体的な話
いっやぁ……本当にいい映画でした……。
9月の頭から103巻分追いかけた甲斐はありました。
むっちゃんこ面白かったし、ウタとシャンクス、それぞれの真意を知ったときはオンオンないてしまった。
そしてちゃんと娘のために助けに来てくれるシャンクスはルフィが憧れ、ルフィの期待に応える人物だということを、すさまじい説得力で再度感じさせてくれました。
シャンクスが本当にかっこよかった。
私は大切なものを守るために苦しみを背負う人に弱いんですよ。
ウタというヒロインの話
ウタは間違いなくこの映画の敵役なんですけど同時にヒロインでもあるという、これまた私の好みに刺さる役どころでした。
出発点は十二年前にエレジア島を崩壊させ自分を捨てたシャンクス(=海賊)への憎しみで、同じように海賊に苦しめられた人々の支えとなったウタ。
↓
十二年前の事件の犯人はシャンクスではなく自分だという真実を知ってしまい、
海賊を憎んでいた時期に作られてしまった世間からのイメージと、
板挟みで引くに引けない状態になってしまう。
↓
自身の能力を使い、現実世界で苦しんでいる人たちを救うため、
という大義名分に縋ることしかできなくなって今回の計画を実行する。
↓
最終的に力を抑えきれず暴走する。
というラスボス系ヒロインとそれを止めるヒーローという構図が大好物なんですよ。
ここでヒーローはルフィだけじゃなくシャンクスも含まれるというのと、
ルフィとシャンクスの二人が必要であることの必然性がしっかり用意されているのもポイント高いです。
さらに良かったなあって思うのはウタの背景が明らかになる前の前不利が細かいところ。
序盤にシャンクスの居場所をルフィに聞く様子が描かれていて、
「計画の末に最期にシャンクスに会えるかもしれない」という一抹の希望を抱いていた様子の表れだったんでしょうね。
話は変わってウタの計画の話。
ウタの計画自体は結果だけ言ってしまえば集団自殺なんですが、
ウタワールドは理想の世界なので、そこにいればみんな幸せという考えはすごくよくわかりますし、ワンピースの世界は非常に過酷な世界なのでなおさらウタの気持ちは理解できるんですよね。
劇場版の主要人物なので当たり前と言われたらそれまでなのですが、
こうして振り返ってみると、ウタの行動原理とか心理とか、
キャラクターを構成する要素の考察量がすさまじいなって思いましたね。
バトルシーンの話
Tot Musica戦はすごくいいバトルだったなあって思います。
夢の世界と現実世界のTot Musicaを同時に同じ部分を攻撃しなきゃいけないという無理難題に対して、
Q.そもそも誰が現実世界から攻撃するの?
という課題に対して、シャンクスがルフィの期待に応えてちゃんと娘を止めに来てくれるのもかっこよかったですし、
Q.現実世界から誰か来てくれたとして、どうやって同時に攻撃するの?
という課題に対しては赤髪海賊団と麦わらの一味のもう1つの接点で解決という回答がしっかり用意されていたうえに、そのためのお膳立ても完璧で声がでそうになりました。
無敵の存在の突破口を突いて倒すという展開の完成度がたけえんですよ。
(まあ、赤髪海賊団側の接点は妻子ほったらかしにして冒険に出たという意味ではちょっとアレなんですけど)
あとさらっと最新巻でルフィが発現した能力使ってたのビックリしましたね。
よかったよ。103巻まで読んでおいて。
原作103巻まで読んだ感想
最初は長編1つ1つに感想を書こうと思いましたが多すぎて断念しました。
空島編まではなんとかなりそうでしたがなにせ103巻もあるので
感想を書くために振り返らなきゃいけない話の量が多すぎました。
特に中盤(50~70巻ぐらい)は話の密度が濃くて、正直情報全く処理できてない部分もあります。
毎回度肝を抜かされたのは複数の要素(命題)を同時に進めるストーリー構成能力の高さですね。だからこそ中盤で処理落ちをしてしまったわけですが。
普通の長編漫画って、
「NARUTO」なら「ナルトが火影を目指す」、
「金色のガッシュ!!」だったらガッシュが優しい王様になるために戦う」、
みたいな作品全体の軸なりゴールが用意されているじゃないですか。*1
ただ、作品全体の軸を元に話を進めていくと抽象的になってしまうので、
長編のゴール(命題)という形で具体的な中継地点を用意しておいて、
それを目指すことで長編の話をメインに進めつつ、
作品全体の軸となるお話を少しずつ進めていく形をとっている作品が多いと思います。
NARUTOでいうなら中忍試験編のゴール=「中忍試験に合格する」、
ガッシュでいうなら千年前の魔物編のゴール=「黒幕を倒して操られている人を救う」といった感じです。
ワンピースも同様の手法をとっているのですが、
この作品の恐ろしいところは1つの長編の中で複数のストーリー(命題)を同時に進めていくところなんですよね。
中忍試験編 → 中忍試験の裏で大蛇丸が木の葉崩し(クーデター)を進めている
千年前の魔物編 → シェリーとゾフィスの因縁に決着をつける
というように最初に示したストーリーを隠れ蓑にした本命のストーリーを用意していたり、
関連したテーマのストーリーが進んでいたり……ということはよくあるのですが、
この作品は平気で全く関係ない複数のストーリーを同時に進めてきます。
それでいて長編の最後はきっちり複数のストーリーが合流します。
マジで意味わからん。*2
特に驚かされた(というか最初に驚かされた)のはウォーターセブン&エニエスロビー編です。
メリー号の最期とロビンの「生きたい!」のコマはちょくちょくインターネット上で目にしてはいたのですが、
まさかこの二つが同じ長編に出てくるコマだとは思いもしませんでした。
長編のような大規模なものまでいかずとも尾田栄一郎という作者は、
一つの要素に全く関係なさそうな2つの意味を見出したり、
関係なさそうな二つの要素を結び付けたりする手腕がとにかくすごいです。
具体例を挙げればアラバスタ編の最後にでてきた「仲間の証」。
もともとは味方の姿をコピーする能力者への対策だったものを
王女ビビとの別れのシーンで「また仲間と読んでくれますか?」という問いに対して声を使わずに「YES」と伝える手段に変えたときは恐ろしさすら感じました。
(海軍が見ていたのでビビの立場上、声で返事をして海賊との接点を示すわけにはいかない)
状況を整える手腕の秀逸さまで含めて、ワンピースが25年間もジャンプで最前線走ってきた理由をこれでもかと突き付けられた思いです。
これだけ複雑な構成の物語を構築しつつちゃんと本筋が面白いのがさらに恐ろしい。
そもそも冒険ロマンものとして舞台設定の作りこみが濃密でそれだけですでに面白いですし*3、
まだ話の軸が一本でシンプルだった頃も十分に面白かったです*4
そしてこの質を103巻、時間にして25年間続けてきた能力はやっぱりおかしい(誉め言葉)と言わざるを得ません。
103巻読んできて「複雑で処理できなくなってきた」とは思っても読むのやめたいと思うほどつまらなかった時期は存在しませんでした。
しかも作者のWikipediaみたら劇場版の制作にもしっかり絡んでるらしいんですよね。マジでどうなってんだこの人。
と、まあ今月はワンピースの作者・尾田栄一郎の常識はずれな構成能力に驚かされっぱなしでした。
同時にFILM REDを気に103巻分、しっかり後追いしてきてよかったなあって素直に思います。
お金と時間はだいぶ持ってかれましたが満足度はかなり高いです。